『スペシャリストの帽子』

スペシャリストの帽子
スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫FT)ケリー・リンク/金子ゆき子訳・佐田千織訳

出版社 早川書房
発売日 2004.02
価格  ¥882(¥840)
ISBN:415020358X
十歳の双子の姉妹が、母親を亡くして初めて迎える夏のこと。屋根裏部屋で、二人は帽子でない帽子“スペシャリストの帽子”を手に入れた…世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、既婚者としか関係を持たないルイーズと、チェリストとしか関係を持たないルイーズ―二人のルイーズを描くネビュラ賞受賞の「ルイーズのゴースト」など、米ファンタジー界最注目作家が軽妙なユーモアにのせて贈る第一短篇集。
  • 推薦者:コロ姫

K:カイエ姫たまは『スペシャリストの帽子』を読み始めましたか?
アタシは読み始めたのですが、これはなかなか難儀な予感がしますよ?(笑)

C:まだ着手しておりません(笑)。読む前からそんなこと言われたら…。
スティーヴン・ミルハウザーを彷彿とさせる作風で柴田氏絶賛とくれば、難儀なはずはない……と、信じたい(笑)。
11編収録だから、「なかには難儀なのもあるかもよ?」ってことなんだよ…きっと…。

K:その後、読書の方は進まれましたか?ミルハウザーは気になりながらも未読の作家なのでケリー・リンクの作風と近いのかどうか判断しかねるのだけれども、いやあ…、所謂「幻想文学」ってこんな感じなのかしら?恥ずかしながら言ってしまえば「物語のどこを楽しんでいいのかよくわからないうちに、その物語が終わってしまう」と言う感じでして(笑)。柴田氏*1絶賛なのだからきっとこれから面白くなるのよね!

C:進んでいるよー(笑)。
最近読み終えた柴田元幸編・訳の『ナイン・インタビューズ』(ISBN:4757407815)に『スペシャリストの帽子』についての言及箇所があるのね。引用してみるよ。本書を楽しむ手がかり、読み進める際のささやかな指針にでもなれば。

柴田 ケリー・リンクっていう若手の女性作家がアメリカにいて、少女探偵が部屋のクローゼットの裏を通って地下世界に降りていくとかいった話を書いている。そういう個人の妄想っぽいところからはじまって、単に一人の妄想に終わらずに、多くの人が深いところで共感できるような物語になっていく広がり方は、どうなんだろう、そういう展開の仕方って、ちょっと前のアメリカ小説にはなかった気がするんですよね。

これは村上春樹とのインタビュー中での発言なんだけど、ハルキ・ムラカミの小説を読んできたアメリカの若手作家たちの作品と春樹作品の共通点―ほとんど漫画的とも言ってもいいような設定からはじまって、そこから何らかの形で闇とか地下とか異界みたいなところに降り立っていって*2、そこでシリアスな物語が展開される―の具体例として、ケリー・リンクが挙げられているのね。
非アクチュアルなところを起点としながら、普遍性の獲得へと着地するこの展開を「一種の小説制度の解体」と呼び、解体してバラバラになったピース、部品を再統合する際の別の座標(=“小説の中心線”*3)の一つなのではないかと続くのね。柴田氏*4の帯にある「アメリカ小説の新しい流れ」とはこのことを指しているのかな?
……と、以上のような位置付けをセットの上読んだら、楽しくなってきそう?(笑)

K:沢山紹介してくれてどうもありがとう〜。
スペシャリストの帽子』は現在、6編目の「人間消滅」を読んでいます。

柴田氏が「単に一人の妄想に終わらずに、多くの人が深いところで共感できるような物語になっていく広がり方」と指摘しているようなのだけど、現時点では「理解を拒むような狭いところ」に落ち込んでいっているような感じがしていますよ(笑)。
敢えて言うのならば「雪の女王と旅して」がそれに近いのかなあ…。

非アクチュアルな場所から普遍性を獲得する物語、アクチュアルな場所から全く限定的な結末を紡ぐ物語。前者を「一種の小説制度の解体」と呼ぶのならばこの場合は後者が「典型的な小説制度」ということになるのかしら?(それとも、「非アクチュアルな出発点と着地点を持つ」のが典型的な小説っていうことになるのかしら?)
以前、舞城王太郎*5の小説に対して「とてもテンションの高い所から、落ち着いた了承可能な着地点に降り立つ」と言ったような感想を持ったのだけれども、このことも「小説制度の解体」と言う文脈でお話しできるのかしらね。

*1:柴田元幸氏のこと。「彼の翻訳した小説を読めば、現代アメリカ文学の凡そを俯瞰できる」(カイエ姫談)

*2:世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』などだね。

*3:(C)村上春樹

*4:*1に補足。『舶来文学柴田商店』(ISBN:4403210619)『愛の見切り発車』(ISBN:4101279314)などを手元に置いて参照しながら小説を読み進めるのもいいかもしれない。

*5:二人の間で頻出する作家さんのひとりです(笑)。